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赤毛のレドメイン家

 原題 THE RED REDMAYNES (1922) (東京創元社創元推理文庫

『だれがコマドリを殺したのか』が新訳で再販され、本屋で平積みにされていたのをみながら、イーデン・フィルポッツって読んだことないんだけれど面白いのかしら、と手にとりつつ、結局迷って戻してしまうというようなことを何度か繰り返していた。先日、ジュンク堂書店三宮センター街店で『赤毛のレドメイン家』が目に入った時は、一度読んでみようか、と案外すっと手が伸びた。センタープラザ西館二階にあるジャズ喫茶「茶房Voice」で読み始めると、さすが江戸川乱歩が絶賛しただけあって、ぐいぐい読ませる。冒頭はイギリスのダートムアを背景に、ロンドンから休暇でやってきた名のある刑事が、事件に巻き込まれていく様を描いていく。

刑事は釣りに出かけた荒涼とした沼沢地で「かって見たこともないほど美しい女性を見た」。女は彼と一瞬目を合わせながらも、楽しげに軽やかにその場を通り過ぎて行く。彼女のことが気になって釣りにも身がはいらない刑事のもとに通りすがりの男が声をかけてくる。真っ赤な髪の毛のがっしりした男。後に、男はロバート・レドメインで、美しい女性の叔父であり、女性の夫を殺して逃走をはかった人物であることが判明する。

刑事は悲しみに沈みながらも気丈に自身の家系や事件の顛末を語る女性のために、休暇中でありながら、捜査に加わり、彼女の気持に応えようとする。しかし、簡単に解決されるかに見えた事件は、思いがけず行き詰まってしまう。

やがて、事件は、イタリアのコモ湖畔にうつり、行方不明だったロバート・レドメインが姿を現して第二の殺人が起きる。イギリスの時と同様、被害者も加害者もこつ然と姿を消してしまうのだった。

本格ミステリはこれ以上あれこれ説明できないのがもどかしい。本来なら何も知らないで読み始めるのがベストだろう。読んだ人とは是非お話したいものだ。このプロット、あるいは種あかしとして浮かんでくる真実はかなり自分好みであり、江戸川乱歩が絶賛するのもそのあたりを乱歩がたいそう気に入ったからではないだろうか?

乱歩がこの『赤毛のレドメイン家』を翻案した『緑衣の鬼』という作品があるというので、早速読んでみた。ストーリーはほぼ一緒で、日本の風景に上手に置き換えてある。乱歩らしいおどろおどろしい仕掛けも用いつつ、ミスリードの工夫も凝らされているが、『赤毛のレドメイン』のストーリー展開の核になる重要な部分は意外と強調されていない。やはり乱歩はこの作品の構成よりも例の部分が気に入ったのだという私の仮説はまったくの見当違いでもなさそうだ。きっとあの台詞を一番書きたかったのではないか。

と、なんとも微妙な書きかたしかできないのが残念だが、つまり、そういうことなのだ。