映画とご飯

映画と外食。

チャールス・ブコウスキー『パルプ』

 

パルプ』(チャールズ・ブコウスキー / 訳:柴田元幸/ ちくま文庫)を読む。

ハードボイルドな私立探偵ものは数多く読んできたけれど、これほどいきあたりばったりな探偵はいなかった。ハードボイルド文脈を借りながら絶妙なユーモアで笑わせる。私立探偵ニック・ビレーンは事務所を威勢よく出て行くけれど、行き着く先は馬券場か酒場。酒場にいくたび、バーテンともめている始末。死神が出てくるかと思えば宇宙人まで出てきて(その登場シーンがいかにもチープなのだ:バリバリと大きな音がした。紫の光がパッときらめいてetc…)地球侵略を考えているので協力しろと言ってくる。なんなんだこれとたのしく読みながら、ふっと「要するに俺は死と宇宙にはさまれて座っているわけだ」というセンテンスが出てきて「なんだか深い!」と思わせもする。この探偵ではなにも解決できないだろう、最後は全て投げ出すのでは?と思っていたら、なんとなく、みんな解決していく(笑)。そして何より、この作品が好きなのは主人公がカナリアを大事にすることだな。「赤い雀」を探す中で、騙されてつかまされる赤く塗られたカナリア。ニック・ビレーンはまずこう思う。「こんなもの逃しちまうわけにもいかない。外に出たら飢え死にしちまう。飼うしかない」。これは小鳥を飼ったことのある人の思考だと思う。さらに、彼は身をはってカナリアを守るのである。いや、実に素晴らしい!