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『人生は小説よりも奇なり』はニューヨーク版『東京物語』だ!

『人生は小説よりも奇なり』(Love Is Strange 2014年アメリカ映画 アイラ・サックス監督)

2011年ニューヨーク州同性婚が認められたために、長年連れ添ったベン(ジョン・リスゴー)とジョージ(アルフレッド・モリーナ)の熟年カップルは念願の挙式をあげる。親戚をはじめ多くの人の祝福を浴び、幸せいっぱいに見えた彼らだったが、頭の硬いカトリック系の学校からジョージは首を言い渡されてしまう。失業の上に、保険や年金などの問題が重なり、二人は同居していたアパートを離れなくてはならなくなり、別々に親族の家に居候することになってしまう。

開けているようで居て、実は保守的なアメリカ社会が垣間見えるのだが、彼らの近しい人々は、それでも彼らのことはとても理解しているように見え、本気で祝福していたのは確かだろう。だが、実際自分たちの生活に関わってこられるとなると話は別らしい。ベンが世話になることになった甥(?)夫婦には一人息子がいる。夫は映画関係の仕事、妻は作家。非常に理知的な家族で、それなりのレベルの生活をしているように見受けられるが、ニューヨークの住宅事情なのだろうか、ベンにあてがう余裕の部屋がない。三人だけできちきちの生活なのだ。ベンは息子と部屋をシェアする羽目になる。さらに、ベンは執筆中の作家につい自分のペースで話しかけてしまい、だんだんと迷惑がられていく。夫は仕事にかまけていて、妻の不満を理解しない。家族の不和まで招くことになる。一方の、ジョージが転がり込んだ親戚の家はといえば、毎晩パーティーが開かれ、彼はほったらかしの上に、パーティーが終わらなければ眠ることもできない。久しぶりに会えたとき、二人は涙の抱擁をする。これを見ていて私は「これって、まさにNY版『東京物語」ではないか」と心の中で叫んでしまった。小津の『東京物語』はご存知のように尾道から東京で暮らす子供たちのもとにやってきた老夫婦の数日間を描いたものである。迎えた子どもたちは自分たちの日々の生活で手一杯で、時間的にも経済的にも十分なもてなしを行えない。それをうしろめたく思うことすらなく、むしろわずらわしいといわんばかりに、両親を熱海にやってしまう。両親にとっては、子供たちが立派にやっているかと思えば、意外と小さな住まいでやっとの生活であることに軽く失望する。しかし、「わたしらのところはまだいいほうじゃよ」と語り合いながら、郷里に帰っていく。

東京もニューヨークも同じなのだ。ニューヨークの家族は老人の子供家族というわけではなく、立場的には原節子に近いのかもしれないが。ふいにやってくる死もニ作品を比べたくなる理由であろう。

生前、ベンと心のスレ違いがあったと感じる少年は、ベンの書きかけの絵をジョージに届けに行く(この絵がすごくよいのだ。これが未完成に終わったのが本当に残念。途中でも素晴らしい絵だけれど)。その帰り、アパートの階段で壁にもたれながら彼は静かに涙を流す。その長いシーンがとても心に染み入ってくる。やがてアパートを出た彼はかつてベンとの会話に出てきた少女と合流し、夕焼けで染まる街中をゆっくりとスケートボードで進んでいく。なんだかそれは『東京物語』の尾道のきらきらした風景を想いださせもする、静かで美しいシーンだ。