毎日散歩

本と映画と音楽と、ときどき珈琲

本日の名盤

「But Not For Me」アーマッド・ジャマル

 

But Not For Me

But Not For Me

 

 アーマッド・ジャマルは1950年代からシカゴを拠点にして活動したジャズ・ピアニスト。1957年の本作は彼のもっとも売れたアルバム。表題の「But Not for Me」はガーシュイン作曲。二曲目、「飾りのついた四輪馬車(The Surrey with the Fringe on Top)」はミュージカル「オクラホマ!」のナンバーで、リチャード・ロジャース&ハマースタイン二世コンビによる作品。 エキゾチックなナンバー、六曲目の「ポインシアナ(POINCIANA)」はナット・サイモンとBuddy Bernierによる1936年の作品。キューバフォークソングが基になっている。

 

本日の読了本

「シカゴ育ち」(スチュアード・ダイベック/柴田元幸訳 白水Uブックス

 

 1990年に発表されたダイベックの第二短篇集。シカゴ南部の移民系が多い貧しい土地に暮らす人々の生活を描いている。一作目の「ファーウェル」からぐっと心を掴まれる。極寒のミシガン湖の近くの小さなファーウェルという通りに住むロシア語のゼミの先生のところを僕が訪ねて行く短い短い物語。

そして彼はファーウェルに住んだ。さようなら(フェアウェル=本文ではルビ)と言っているような名前の通りに。

 ここでいきなりぐっと来てしまった。この一文になんと多くの感情が宿っているか。そしてこの作品集の中でも一、ニを争う傑作であろう二作目の「冬のショパン」。妊娠したせいでニューヨークの音楽学校から帰ってきたマーシーが弾くピアノ曲がいつも階下に住む僕たちに聞こえてくる。僕達というのは主人公である僕と、その祖父のこと。生涯を放浪して生きてきたジャ=ジャは、いつもバケツにお湯を入れ足をひたしている。二人のもとに音楽が響いてくる。

ピアノの音が、天井を伝って重く響いてきた。耳からきこえるというより、体で感じられる音。特に低音はそうだった。時たま、和音が打ち鳴らされたりすると、引き出しにしまったナイフやフォークががしゃんと鳴り、コップがぶーんと唸った。

 マーシーが弾いているのはショパン。ジャ=ジャは僕にショパンを解説する。

「あの娘はワルツを一つひとつ弾き進んでおる」密談でもするみたいないつもの低いしわがれ声でジャ=ジャは言った。「まだ若いのに、ショパンの秘密を知っているよ-ワルツというのはだな、人間の心について、賛美歌なんかよりずっと多くを語れるんだ」

ある停電の夜、いつもよりも激しいマーシーの演奏を聞きながら僕はレンジの火のゆらめく部屋でスペリングの練習を続ける。

僕の手元でテーブルが揺れた。でも文字は完璧な形をなしていった。僕は新しい言葉を綴った。それはいままで聞いたこともない言葉だったが、書いたとたんにその意味は明らかになった。まるでそれらが違う言葉に属す言葉であって、その言葉において言葉は音楽と同じく音によって理解されるかのように。

ここでは見事なアンサンブルが起こっているのだ。ピアノとスペリングの。素晴らしい演奏ではないか。「ファーウェル」にも先生の家の近くに来た時に音楽が聞こえているし、「荒廃地域」でも主人公の少年たちはバンドを作って音楽をやっている。スクリーミン・ジェイ・ホーキンズに影響を受けてブルースシャウトを競い合う。

時たま汽車がすごいスピードで走りすぎていったが、頭上で響くそのびゅうんという音も音楽の一部みたいに思えた。

 ガード下の向こうに黒人の少年たちがやってきて見事なハーモニーを聞かせ、僕たちはそれに聴き惚れたりする。最後まで音楽をやっていたディージョは45回転のレコードまで出してしまう。そして、酒場を一軒一軒回ってジュークボックスに入れてもらう。

このように音楽が活き活きと作品に息づいていて、音は聞こえないのに、すっかり音楽に浸っている気分になってページをめくっている。何か一枚のアルバムを聴いたように。そして聴き終わった時には少年たちは成長して町を出てしまっており、音のない世界に戻ったようななにかとても静かな寂寥感を味わいながら、本を持って放心している。そんな感じ。

一方、連作「夜鷹」の中の一編「時間つぶし」では主人公は時間つぶしに美術館をぶらつく。そのため、いくつかの美術作品が出てくる。ゴッホの『アルルの寝室』、ドガの踊り子、「『グランド・ジャット島』の川べりに遊ぶ群衆の一員なのだ」というのは勿論、ジョルジュ・スーラの『グランンド・ジャット島の日曜日の午後』を指しているだろう。モネの『サン=ラザード駅』『サン・タドレスのテラス』『プールヴィルの海の影』。そして最後を締めくくるのはエドワード・ホッパーの『夜ふかしをする人々(ナイト・ホークス)』。まさに「夜鷹」である。

このあとにつづく連作の一編「不眠症」は、ホッパーの絵を素材に、そこから自由にイメージをふくらませてものであると、解説に書かれている。

聴覚に、視覚に、実に豊富なイメージを味わえ、心にいつまでも響き続ける傑作短篇集だ。

本日の食

京都北白川「MUNIAN」のトリュフ。ホワイトチョコレートに抹茶とほうじ茶と甘緑茶をそれぞれ加えた絶妙な食感の逸品。美味しい~~!

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